はしもと整形外科

健康コラム

賢い患者になりましょう   2022.12.21

医師の過重労働が問題になっています。年間4,000時間労働も珍しくありません。これは日本人平均の倍です。一部の医師といえども、なぜ、そこまで働かなければならないのか。 経済協力開発機構(OECD)のまとめた報告書によれば、日本の国民1人が医師の診察を受ける回数は年12.9回とOECD平均(6.6回)のほぼ2倍となっています。最新の医学を学び続けなければならない立場にあるのも確かですが、医療現場で、お医者さんがやたらと忙しい背景には、こんな病院好きの国民性もあると思います。

今では、大病院に紹介状を持たずに受診すれば、何千円か上乗せされた金額の診療費を払わなければなりません。それでも大学病院などにかかりたいという方は多くいます。その結果、どういったことになるでしょうか。大きな病院の勤務医の任務は、外来も大事なのですが、主には入院患者の診療となります。軽症患者も多い外来を終えてぐったりしたまま、病棟に入ることになります。そして残業です。病床当たりの医師数が少ないことも病院勤務の医師を長時間労働に追いやっています。

 日本は人口当たりの医師数が少ない、いや諸外国と比べてもそん色ない、など色々な意見があります。ただ忙しいのは確かです。いわゆる「かかりつけ医」としての役割を果たす開業医(診療所)の先生方に余裕があるのではないか、という意見もありますが、それぞれに言い分があります。ただ、言えるのは、どこの病院でも診療所でも自由に受診できるフリーアクセスという制度が、「念のため」、「もしかしたら」とドクターショッピングという行動に走る方を招いている、そんな状況もあります。安心安全のため、フリーアクセスを否定するものではありませんが、医療費は国民皆で負担しているものです。出来るだけかかりつけの先生に相談しながら医療を受けたいものです。

 国はマイナンバーカードを健康保険証に代える方針を打ち出しました。具体的にどう動いていくかは分からないところもありますが、受けた診療の記録(カルテそのものではありませんが)と服用してきた薬の一覧が閲覧できるようになって行きます。人口減少が本格化している日本において、医療の生産性も上げて行かなければなりません。  賢い患者となって日本の医療を守りたいと思います。    

医療コンサルタント
(元大阪市立大学大学院特任教授)
松村眞吾

歩いて心身ともに健康生活   2022.6.30

コロナも落ち着いてきて「旅行に行こう」と出かける人も多くなってきました。3年ぶりに春を楽しんだ方も多いでしょう。仲間との会食も、人数を減らすなどの工夫を凝らしながら再開といった風景をよく見かけます。外国人旅行者の解禁も報じられています。大阪ミナミでは、日本に住む外国の方を含めていろいろな観光客を見かけるようになりました。

コロナ太りという言葉があります。在宅勤務、巣ごもり生活で運動不足になって、どうしても太ってしまう…仕方ないことです。ジムに通うのも一手ですが、もっと簡単に、より日常的に体を動かしていくことが大事と思います。ジム通いは週末だけかもしれませんが、毎日、なにかしら体を動かすことが健康づくりにつながります。

 コロナ禍にあって循環器系の病気で亡くなる方が増えました。減りつつあったのが増えたわけですから大きな問題です。やはり運動不足が影響していると考えられます。コロナに感染しなければ、それで良いというわけではありません。「コロナにならなくて良かったね。でも持病が悪化して長くない」などというのは本末転倒でしょう。

 まず家を出て歩きましょう。街を、山を歩きましょう。ゴルフも良いでしょう。城巡りも良いかと思います。1万歩はなかなか難しいです。2時間近く歩いてやっと1万歩でしょうか。意識してウォーキングなど、1日に8,000歩くらいを目標にしましょう。

 実は歩くことは単なる運動ということではありません。歩いて発見することも多いはず。四季の花々、我が街にこんな店があった、あんな建物があったということ、運動になるだけでなく、想像より楽しいな、と思えてくるのです。楽しいこと、こんなものがあったんだという発見、そういったことが大事です。高齢になると「きょういく」と「きょうよう」が重要だとか。「今日、行くところがある」、「今日、用事がある」ことです。

 コロナ禍による巣ごもり生活で、気持ちも沈みがちになっていませんでしたか。同じような毎日では精神的にも参ってしまいます。犬も歩けば棒に当たる、人も歩けば発見、楽しみに当たる、です。歩くことは、精神衛生上も良いことだと思いませんか。市民の健康づくりを目指してウォーキングロードを整備している市もあります。スマートウエルネスシティとか称するそうです。

 黙々と走るのも良いと思います。「それはしんどいなあ」と思う方、とりあえず歩いてみませんか。心身ともに健康になるかも。  

医療コンサルタント
(元大阪市立大学大学院特任教授)
松村眞吾

なぜお医者さんは忙しいのか? 大病院にかかると初診7,000円とられるわけ   2022.3.10

コロナ禍が2年余りも続いて医療界も大変なことになっていますが、実はもう一つの大きな変化が起こっています。医療費は診療報酬というものが2年毎に改定されるのですが、今年4月の改定に病医院関係者は身構えているのです。

大病院、大学病院などに診てもらおうと受付に行くと「紹介状はありますか」と問われることが一般的になりました。選定療養費という名目で、例えば紹介状のない初診は5,000円をプラスして徴収されますが、この4月からは7,000円に上がることが決まりました。納得できないかもしれません。大きな病院で診てもらいたい事情というものがある、と言いたいかもしれません。

 実は病院のお医者さんの働き過ぎが問題となっています。夜勤してそのまま通常の診療に対応する、などといったことが当たり前のようにありました。さすがにこれは問題だと、2024年から時間外労働の規制が始まります。外来診療で疲れ切って、昼食も食べずに入院患者さんを診て回る。これで良い医療を提供できるだろうか、というわけです。専門を生かした診療に集中してもらう必要がある、という方向に国も動いています。

今回の診療報酬(医療費)改定で何が注目されているのでしょうか。大胆にまとめてしまえば「専門医療を提供する大病院と『かかりつけ』医を担う地域の病院、クリニックの役割分担を進めて下さい」ということになります。大病院が信頼できると押し掛けるのは、コロナで問題となっている医療ひっ迫を促進しかねません。かかりつけのお医者さんも、ただ患者さんが来てくれれば良いというわけではありません。日頃から、その患者さんの持病のこと、体調のこと、家族のことなどを知っておきたいと考えます。前もって患者さんの情報があれば的確な診察ができる。当たり前のことではないでしょうか。

かかりつけ医を持って、日常的に診てもらい、体調の変化があれば相談にも乗ってもらう。自分のことをよく知ったかかりつけ医を持ち、専門的な診療が必要になったら、適当な病院を紹介してもらう。私たちは、医療サービスを受けるについて、そういったことを、改めて考えなければなりません。高齢化が進みますが、歳を重ねると、複数の病気を持つ、なかなか治らないといった状態になり勝ちです。診察するお医者さんも大変です。若者なら単純な病気が高齢者だと多くの情報が必要になるからです。

そういったことを理解して病院に、クリニックにかかりませんか。  

医療コンサルタント
(元大阪市立大学大学院特任教授)
松村眞吾

お医者さんは忙しい−病院との付き合い方   2021.10.28

体調が悪くて大きな病院で診てもらおうと受診すると「選定療養費」という付加料金を取られたことはありませんか。国は今、先ずかかりつけ医に受診しましょうという方針を採っています。どうしてなのでしょうか。  コロナの波が襲ってくる度に「医療崩壊」、という言葉がマスコミやネットで流れ、ベッドが空かないということで入院先が決まらず救急車の中で何時間も待たされる、といった話が聞かれます。新型コロナという新型感染症の受入れは特殊なものなのだからでしょうか。加えて病院のお医者さん方は忙しいこともあるかもしれません。

「働き方改革」とやかましく言われるようになって何年か経ちました。病院勤務医は2024年から残業規制が始まりますが、その内容は、一部で年間2,000時間近い残業を認めるというものです。年間4,000時間労働もOKというものです。信じられないような長時間労働です。

 大病院のお医者さんは、外来診療をバタバタと済ませて、それから病棟に入院患者の診療に回ります。手術もあったりします。大病院の任務は入院患者さんの治療です。軽症の方が外来で時間を取ってしまうと、それがおろそかになりかねません。また既往症や普段の体調のことを知らずに患者さんを診ることは、なかなか難しいことでもあります。診療所(クリニック)や小さな病院と役割が違ってくるのです。

 かかりつけ医を持っているでしょうか。問診でいろいろ説明を加えなくても、普段の自分を知ってくれている。そんなかかりつけ医を持っておきたいものです。大病院のお医者さんは一から情報収集をしなければなりません。時間もかかるし的確な判断をするための情報も不足してます。だから、まずはかかりつけ医に、となるわけです。

 分業です。買い物でもスーパー、ディスカウント店、百貨店、専門店、ネット販売を使い分けます。医療の世界にも分業が必要なのです。大病院のお医者さんが皆、年間4,000時間も働いているわけではありませんが、得意分野に集中して技術を上げてもらいたいなと思います。私たちは顔の見える関係のかかりつけ医を大切にしたいと思います。

 新型コロナを身近な診療所(クリニック)で治療というのはもう少し先になりますが。  

医療コンサルタント
(元大阪市立大学大学院特任教授)
松村眞吾

コロナ関連情報、正しく読み解くには   2021.7.21

コロナ禍も1年半となって巣ごもり生活が長引き、外出の機会も減っている人が多いようです。ワクチン接種が進むにつれて、コロナ自体もですが、このことによる影響が心配だと言う医療介護関係者も増えてきたように感じます。

歩くこと、それは運動だけを意味するものではありません。地域の健康づくりのアイデア出しで「ウォーキングでポイントを集めて地元の商店街で買いものが割引に」といった案が出てきます。肝心なことを見落としてないでしょうか。歩いて楽しい街であり、誰かと出会える機会であってこそ、出かけてみようと思います。単に歩くだけでは面白くありません。

 出かけることは人に会うことにつながります。外に出て街を歩こうという気になるのも、新しい「発見」、「出会い」があってこそではないでしょうか。ひたすら歩くことが好きという方もあるでしょう。よく無心に走っている方も見かけます。筆者は「健康のため」歩こうという気持ちには、なかなかなれません。ただ、近所に子どもの頃から通い慣れた商店街があります。そこでは毎回、わくわくする何かに出会います。その商店街だからこそ歩こうという気になります。歩けば腹も空いて食欲も出ます。夜もよく眠れます。

 大きなショッピングセンターに行ったりすると知らない間に万歩計が1万歩を記録していたなどということがあります。毎日1万歩を目標に歩く。長続きしていますでしょうか。意外と根気強く続けておられる方もいますが、修行僧のようで楽しそうには見えません。人それぞれではあるでしょうが。

 まだコロナ禍はしばらく続くでしょう。それでも徐々に人と出会う機会は増えていっています。久々に街を歩いてみたら新たな発見もあるかもしれません。花のこと、家庭菜園のことなどを楽しそうにフェイスブックやインスタグラムに投稿する人も増えています。家の外の魅力を再発見する人が増えていると思います。歩くことは、その最大の手段となります。発見する、人に出会う、季節を感じる、日常に彩りをつける。分かって頂けると思います。

 健康のため、黙々と夜の街を歩き続ける。それも良いと思いますが、「楽しむ」ために手段として出かける、街を歩くのはいかがでしょうか。歩けば世間との交流もある。どんな健康づくりよりも、それが健康づくりになっていくはずです。

医療コンサルタント
(元大阪市立大学大学院特任教授)
松村眞吾

コロナ関連情報、正しく読み解くには   2021.2.5

 もう1年になろうかとしています。連日、コロナ情報がテレビやネットで飛び交っていて、緊急事態宣言が出され自粛が言われて、いつになったら以前の生活に戻れるのだろうかと読者各位も不安になる日々だろうと思います。研究もかなり進んできてワクチンも接種が始まろうとしていますが、何を信じたら良いのか情報の洪水で分からなくなります。パンデミックならぬインフォデミック(情報による混乱まん延)と言います。

先ず言えるのは、新規感染者数に大きな意味はないということです。そもそも検査数に左右される数字です。当初の10倍を優に超える検査が実施されています。陽性率や実行再生産数(1人の感染者が何人の人に移すかという数字のことで、1を超えれば感染拡大、1を割れば感染減少になります)などといったデータを見なければ正しい理解になりません。

 理解して頂きたいのは、新規感染者数で不安をあおるようなテレビのワイドショーなどに惑わされないで欲しいということです。良いニュースはあまり流しません。悪いニュースばかり、それも未確認情報があふれています。見極めは非常に難しいですが、丁寧な内容解説をしてくれる特集などを選ぶべきでしょう。芸人があれこれコメントするワイドショーは観ない方が精神安定に良いと思います。

 いろいろ言われますが、基本はマスク、手洗い、三密回避ということでしょう。高名な感染症専門医が「食べる前に手を洗えば良い』と話されました。神経質になり過ぎるなということです。巣ごもりと言っても運動不足は免疫低下になるとか。外出も「要」なことです。ストレスは免疫を低下させます。せめて、コロナの話題以外のテレビ、ネットをフォローして気分転換をしないといけません。

ワクチンの安全性もあれこれ言われていますが、素人が悩んでみても仕方ないこと。接種する時期までにいろいろ分かってくるでしょう。コロナはいつ果てるかわからない戦争とは違います。戦時中の先人たちの苦労を思えば恵まれています。多くの説では、今年中に日常復帰が見えてくるようです。一喜一憂しても始まりません。まさに止まない雨はない、冬来たりなば春遠からじ、でしょう。

 あまり言われていませんが、ワクチンだけでなく治療法もかなり進歩して来ています。マスクと手洗い三密回避でかなり感染予防できると言います。恐るべき、でも過度には恐るるに足りない、そんなコロナウイルスとのことでした。

医療コンサルタント
(元大阪市立大学大学院特任教授)
松村眞吾

地域コミュニティと病院   2020.11.27

   皆さんは日常生活で、病院の存在をどれだけ意識されているでしょうか。コロナ禍で医療の存在は大きくなっているとは言っても、ご自身かご家族が病気になって初めて意識するものではないでしょうか。病院の経営者はそう思っていません。地域への貢献度が大きい存在だと思っていますが… 

大都市では、いや地方にあっても道路網整備で大学病院などにも時間をかけず行くことが出来るようになりました。小さな個人病院のようなところには、家の近くであってもあまり行くことはありません。「そんな病院、あったっけ」というようなことも少なくありません。

 ところが地域の人々が、病気でもないのに、健診受診でもないのに集まって来る病院があります。関西のある都市で、高齢者の多い慢性期医療を主に手掛ける病院ですが、地域交流施設があって、地元の食材を使ったランチが食べられ、子ども食堂が開かれ、体操教室、子育て相談、病院ゆえに健康教室、さらには近所の農家の野菜販売まで行われています。

地域住民が新病院づくりに参加した事例もあります。病院の関連が手掛ける高齢者住宅(サービス付き高齢者住宅)には、子どもの自習室やレストラン、バーまで入居しています。

 地域と深く関わり合う病院は、超高齢社会においては大事な存在です。70歳80歳となると病気は簡単に治るものではなくなります。地域での生活の中で養生しながら医療を受けることになります。地域包括ケアシステムと呼ばれる仕組みがあります。病院から介護にシームレスに繋がっていくケア、地域コミュニティが支えるケアの仕組みです。地域と関わる病院が、その中心を担っていく、そんな可能性があります。

 地域にとって大事な社会資源である病院が地域コミュニティと強い関係を持つこと。地域住民にとって、こんな心強いことはありません。病院側にとっても地域で信頼される存在となることで、経営の強化を図ることが出来ます。商売で利益を追求することが主たる任務の株式会社などにあってさえ、地域コミュニティに参加することがマーケティングの上においても重要な課題となってきています。非営利事業体である病院においては、なおさらです。

 医療者を地域に引っ張り出してみたいな、と思います。病院で働く人々も、実はやり甲斐のある仕事が地域にあることに気付くはずです。病院の、例えば看護部にでも声を掛けてみませんか。

医療コンサルタント
(元大阪市立大学大学院特任教授)
松村眞吾

「不要不急」の医療? -手遅れにならない受診行動を-   2020.9.4

  コロナ感染拡大の第二波に気持ちがざわつく毎日です。「病院に行ったら感染するかも」、「出来るだけ受診するのは遅らせよう」と病院に行くことをためらう方も多いと思います。実際、病院やクリニックの患者さんは減っており、小児科や耳鼻科など3割も4割も患者さんが減っているところもあるようです。 

ただ、心配は経営のことだけではありません。本当の心配は「コロナに感染しなかったけど、がん発見が遅れて手遅れになった」といったことや「子どもの予防接種が抜けてしまった」という事例などです。既に、ある大学病院長から「がん治療で手遅れになりかねない事例が出始めている」という話があったり、小児科医らから「子どもの将来に影響が出ないか」という心配の声が出たり、高齢者を診る老年科の先生からも認知症悪化などの声が上がたりしています。

 よく知った少しご高齢(と言っても現役で働いておられる)の方から、「今年は人間ドックを見送ろうと考えているが」と相談を受けました。皆さんはどうお考えになるでしょうか。少なくともキチンとした病院の経営する健診施設は、私の知る限り、徹底した感染対策を施しています。100%完璧か?と問われれば断言はできませんが、1年先延ばしして、がんが、いやそれ以外でも命に係わる病気の発見が手遅れになったら悔やまれるのではないでしょうか。

 先般、私の友人が心臓の発作で急逝しました。手術の予定を立てましょう、と主治医と相談していた矢先のことでした。「今のところ、日常生活には差し障りがない」から「不要不急」で病院に行かずにいよう、と決め込んで良いのでしょうか。

 「念のため」受診しておこうというような、いわゆる「コンビニ受診」はほめられたことではありません。しかし受診が必要であるかどうか、を安易に自己判断して良いのでしょうか。警戒すべき病気は新型コロナだけではありません。他にも多くの病気があるのです。

 手遅れにならない受診はやはり必要なのではないでしょうか?

医療コンサルタント
(元大阪市立大学大学院特任教授)
松村眞吾

「新しい日常」に生きる −毎日の生活からの健康づくり   2020.7.7

  コロナ感染拡大により日本全国に非常事態 宣言が出され、ステイホームが言われて徹底的な外出自粛生活が続きました。5月下旬に解除されてからも、マスク着用、社会的隔離を守っての生活が言われ、テレワークの継続、オンライン飲み会の奨励など「新しい日常」が語られています。

感染予防最優先の生活が日常となったわけですが、そもそも日常生活とは何でしょうか。人間は社会的存在であり、感染防止が過ぎると精神疾患の増加、特に認知症の増加などが大きな問題となり得ます。「新しい日常」とは感染予防と社会参加の二律背反をどうやってコントロールしていくべきなのか、という難しい問題を私たちに突き付けたと言えましょう。

 ところで新型コロナ肺炎(COVID-19)の重症化リスクは基礎疾患を有する高齢者で高いとされています。ごく一部の例外を除き、若年層の重症化リスク、致死率は極めて低いことも知られています。だから一律的な感染予防ではなくハイリスク高齢者群を守ることが重要だと議論されるわけですが、「新しい日常」でなくとも、従来からの生活の在り方が問われていると思います。つまり糖尿病、高血圧などといった生活習慣病の重症化予防を実現する(+手洗い励行の)生活が、やはり大事だということです。新型コロナ肺炎は新しい感染症ですが、生活習慣に留意して基礎疾患の早期治療を図り、かつ食事、睡眠、適度な運動といった健康を考えた生活が免疫を高め新型コロナ肺炎に対する抵抗力も強めることになります。

 ワクチンがない、治療薬が限られているなど、新型コロナ肺炎に対して不安な気持ちを持つ方が多いと思います。「新しい日常」が必要だというのは当然なことです。ただ、「新しい日常」が今までの日常と全く異なったものかと言うと、そうでもありません。基本的には、健康を考えた生活、繰り返しになりますが、食事。睡眠、適度な運動という生活、生活習慣病の早期治療と重症化予防が重要ということ、これはコロナ前から変らない基本のキであると考えるのです。

 いかがでしょうか。社会参加という難題は残っていますが、毎日の生活における健康づくり、これがやはり大事なのです。

医療コンサルタント
(元大阪市立大学大学院特任教授)
松村眞吾

 薬局が変わっていく? 健康情報ステーションとしての薬局   2019.12.12

  「健康情報ステーション」と言っても聞いたことがない、という方が圧倒的だと思います。私もそうですが、昭和に育った方なら、町の薬局が身近な健康相談の場だったことを覚えていらっしゃいませんでしょうか。お医者さんにかかるほどでもないな、という軽い風邪や皮膚の問題、ちょっとした怪我など、薬局でいろいろ相談したものです。そんなイメージが健康情報ステーションとしての薬局です。

 国はセルフメディケーション(健康の自己管理)推進の一環として健康情報ステーションの推進を掲げています。市販薬も医療費控除の対象となるセルフメディケーション税制というものもありますが、超高齢化社会においては地域に(ちょっとした、という感じの)健康づくり拠点があれば、確かに良いことだなと感じます。

 まだ一般に普及した存在ではありません。ただ薬局の経営者が地域に出向いて行って、役所の福祉担当者、民生委員から医療介護関係者らが集まっての勉強会に積極的に参加したりして健康づくりのネットワークを担っていこうという動きが増えてきました。また、薬局店頭やショッピングセンターのイベントで、脈拍や血圧を測ったり、場合によっては自己採血による血液検査を実施したりする動きも広がっています。

 生鮮食品以外の食品も売っているドラッグストアも良いですが、また病医院で処方された薬をもらう調剤薬局で「お薬手帳」を活用して薬の相談をするのも然るべきことですが、日常的な健康管理の一環として薬局を気軽に利用できたら、健康づくりが進むと思います。お医者さんは敷居がちょっと高い存在ですが、薬局の薬剤師さんなら気軽に相談できるかも、ということもあります。

 もちろん、病気を甘く見てはいけないわけで、特にインフルエンザの流行時などは他人に迷惑をかけることにもなりかねず、安易に判断せずに医師の診察を受けるべきだと思います。当然のことです。それでも言えることは、健康管理の基本は自分自身で行うことであり、それも専門家のサポートを受けながら、が大事であって、それを気軽に得られる機会があれば良いことだと言えるわけです。

 いろいろな機会があって、場があります。その一つとして「健康情報ステーション」にも関心を持ってみたらと思うのです。

医療コンサルタント
(元大阪市立大学大学院特任教授)
松村眞吾

 WHO(世界保健機関)の健康の定義について考えてみましょう   2019.10.11

  皆さんはWHO(世界保健機関)の健康の定義をご存知でしょうか。1978年、旧ソ連カザフ共和国アルマ・アタで開催された国際会議でアルマ・アタ宣言というものが出されました。その中で、WHOの健康の定義が改めて明らかにされています。

「健康とは身体的・精神的・社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病のない状態や病弱でないことではない」と書いてあります。病気でないことが、イコール健康だというわけでなない、というところがポイントです。「社会的に完全に良好な状態」とは、社会参加がなされている、ということを意味します。ここのところをよく考えてみたいものです。

 老人は入院したら寝たきりになってしまう、などといった話を聞かれた方は多いでしょう。ベッドの上での生活で歩かなくなるから、また飲む薬の量が増えるためなど、いろいろな要因が重なって老人は病院でフレイル(衰弱した)状態になっていきます。いわゆるQOL(生活の質)の悪化もあってのことです。

 入院とは病気を「治す」ために病院に泊まり込むことです。病院で「暮らす」ためではありません。人間は病気を「治す」だけでは心身の衰えを止めることはできない存在です。家庭でも隣近所においても何らかの「役割」を果たすことによって人間は自分の生きている意味を感じるのです。もちろん人それぞれではありますが、多くの人は社会参加が重要なテーマとなっています。

 認知症の方は、単なる「ボケ老人」ではありません。多くの方は、自分が何者であるかを分かっています、もちろん尊厳も失っていません。私たちは人生の先輩として尊敬し、教わることも多々あると知るべきです。日常生活もままならないとされる方が、介護施設での麻雀レクレーションでは、他の参加者に麻雀のルールから点数の数え方まで指導する、囲碁では2段3段の腕前を見せるなどはごく普通のことです。

 高齢者の運転免許返上が話題になっています。首都圏や関西ならそれで良いでしょうが、地方では生活できなくなります。社会参加できなくなるのです。東京都心でも、実は買いもの難民が発生しています。高齢者の社会参加が危機にさらされています。

 私たちは、病気を「治す」ことから、いかに暮らしを「支える」か、を考えなければならない時代に生きています。ピンピンコロリは知りませんが、生老病死は全ての人間が通る道、我がごととして考えたいものです。

医療コンサルタント
(元大阪市立大学大学院特任教授)
松村眞吾

 がんより怖いかも…生活習慣病について   2019.7.1

  テレビドラマ「白い巨塔」が話題になりました。山崎豊子さんの名作ですが、発表された当時と時代も変わってきました。主人公の財前五郎ががん手術の名医でありながら、自らもがんで倒れるというのは皮肉なものですが、原作では胃がんだったものが今回のドラマ版ではすい臓がんになっています。医学の進歩が反映されていると言えるでしょう。

がんは死の病であった。すい臓がんなどは今でも早期発見が難しく、そのイメージが残りますが、胃がんなどはピロリ菌が主因とされ、胃カメラなどでの早期発見早期治療が可能となりました。抗がん剤も進歩して副作用も少なくなってきました。検診をきちんと受けて早期に発見されれば、かなりのところ治る病気となってきたのです。がん治療の拠点病院も増えました。

 人類は病気を克服しつつあるのでしょうか。実際の様相は異なっています。クルマ社会、ネット社会など歩かない生活、過食、カロリ―過多など健康に良くない生活習慣が広がっています。都会で電車通勤をしている人はそうでもないようですが、地方では100m先の近所のお宅に行くのもクルマです。運動不足は明らか。塩分の採り過ぎも問題です。生活習慣病、糖尿病や高血圧の問題が大きくなっています。保健師さんらはそう言います。

 例えば糖尿病はどんな病気でしょうか。自覚症状は少なく、治療にしても、食事や運動療法、薬の服用などは面倒くさい限りで、治療中断の方も多々います。一方で重症化すれば透析が必要に至ったり、場合によっては失明や足の切断もあり得るのです。糖尿病の重症化予防は、今や医療政策の重点課題となっています。

 生活習慣を変えることは難しいことです。美味しいものを我慢したり、運動しなければいけなかったり、痛いことも痒いこともないから今はもっと楽しく生きたいと思ってしまいます。一気に進んだこともあります。煙草については、禁煙促進が進みました。喫茶店や居酒屋でも禁煙の店が珍しくなくなりました。「ヘビースモーカーだが長生きしている人もいる」などという異見も聞かれなくなりました。煙草は肺がんのみならず循環器系他の多くの病気に関係しています。糖尿病も高血圧も煙草の問題と同じくらい深刻な問題なのです。もはやがん対策だけが課題ではありません。昨年12月に脳卒中・循環器病対策基本法が成立しました。実は怖い生活習慣病のことをしっかりと考えたいと思います。

医療コンサルタント
(元大阪市立大学大学院特任教授)
松村眞吾

 病気になったら…大病院と家とどちらがいいのかな   2019.2.22

  体調が悪いといった時、どうされていますでしょうか。近くであっても外出することになると却って悪化するかもしれません。しかし家でじっとしていたら、どんどん悪くなってしまうかもしれません。

医療費が増えていくということで国は、いつでもどこでも掛かれるフリーアクセスというものを制限していこうとしています。大病院に紹介状なしで行ったら「5,000円いただきます」と言われる時代となりました。風邪ひきなどは大病院の診療対象ではないとされているのです。

 「私の主治医は○○大学病院の△△先生」と仰る方もありますが、大学病院などは高い専門性を要する医療を提供する場であり、いわゆる大病を患っていない限り、大学病院の先生が「主治医(もしくはかかりつけ)」であることはないはずとされています。

 また、一方で日本人は医者に掛かり過ぎだ、との指摘があります。日本人の年間平均通院回数は12.9回と先進国平均の6.6回のざっと2倍なのです。体調不良があると「念のために」受診しておこうというケースが多いのかもしれません。

 では、医療機関への通院を減らすために体調不良を我慢すべきなのでしょうか。そういう訳ではないでしょう。日ごろから自分の体と心のことは知っておくべしということだと思います。かかりつけの医師、また薬剤師など決めておられるでしょうか。歯科医師も同様ですが、日常的に自分の健康状態を知り、何かあったら相談できる「かかりつけ」を持っておきたいものです。日頃の備えが大切だということです。

 先日も知り合いのお医者さんが「休日診療所は三桁の患者さんが押しかけてきて野戦病院のようだった」と言われてました。特に子どもやお年寄りの場合、医療機関などに行くこと自体がリスキーとも言えるでしょう。と言って、体の弱ったお年寄りなどが家で我慢してれば良いという訳でもありません。

 そんなときのために、信頼できる、自分のことを知ってくれている、相談できる、そんな「かかりつけ」を持つことが、「念のため」の受診より大切だということを知って下さい。

医療コンサルタント
(元大阪市立大学大学院特任教授)
松村眞吾

 進化する医療―オンライン診療って何やろう―   2018.11.6

   診療は対面して行なう(対面診療)のが原則です。医師法20条には「医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書、若しくは処方せんを交付」してはならないと書いてあります。ところが、今年の4月の診療報酬改定で「オンライン診療」という言葉が出てきました。一定の条件下にあってはオンラインで診療しても医師法20条違反ではないと厚生労働省は言います。

オンライン診療は、要するにPC(パソコン)やスマホなどの機器を使って医師が離れた場所から患者を診療するということです。初診と3ヶ月内に1回は対面しての診療が必要であったりしますが、今までは、対面なしの診療は電話による再診しかなく、極めて例外的なものであったことを思うと、画期的なものであると言って良いと思います。

 何かと忙しい働き盛りの方々、在宅医療を受けるまではないが通院がしんどいという方々にとって朗報と言えるかもしれません。今は限定的なものであると言って良いでしょう。報酬の水準も高いものとは言えないので積極的な病医院はまだ少ないと思いますが、国もICT(情報通信技術)を用いた医療の質向上と効率化を図っていきたいとしていますので、急速に普及していくことが予想されます。

 主治医の先生は決めておかなければなりませんし、急変時の対応も必要とされます。ですから安心して診療を受けられると思います。地方によっては外来患者の多くが平均80歳であったり、慢性疾患患者であったりします。車も運転できないから通院が大変だという患者にオンライン診療はピッタリではないでしょうか。近い将来、「オンライン服薬指導」も始まるようです。幅が広がっていきそうです。

 「高齢者はスマホを持たないから」という意見もあります。「だから高齢者を念頭に置いたオンライン診療は普及しない」という意見です。果たしてそうでしょうか。在宅医療、介護関係者は知っています。スマホは使わなくてもPCやタブレットを日常的に使う高齢者は多くいますし、タブレットは少し触れば使いこなせるようになるというのが実際です。高齢者はネットなどICTに弱いというのは、一昔前の偏見でしかありません。

 「セキュリティは大丈夫だろうか」という心配も、オンラインでない診療でも同じ状況であることを考えればいかがでしょうか。「オンライン診療」、ちょっと調べてみませんか。

医療コンサルタント
(元大阪市立大学大学院特任教授)
松村眞吾

 糖尿病の重症化が問題になっているわけ   2018.7.4

  糖尿病の重症化が問題になっているわけ 厚生労働省は生活習慣病対策を推進しようとしています。特に糖尿病のことが問題だとされます。食が豊かになり、一方でネットの隆盛が、さらに動かなくて済む生活を可能にしています。糖尿病が国民病になる素地は大きくなっていっていると言えるでしょう。

なぜ糖尿病が問題なのでしょうか。幾つかのことが挙げられます。自覚症状を感じることが少ないことが一つです。生活に不便をきたすことがない状態が長く続きます。だから食事療法や運動療法のストレス、薬を定期的に飲むストレスなどから逃避してしまう患者さんが多いというわけです。食べたいものは食べたいし、運動は邪魔くさいしとなります。

 ただし糖尿病は悪化すると怖い病気です。ある日、血糖値が急に上がって、即入院などという話もよく聞きます。それだけではありません。透析が必要になってしまう場合もあります。目が見えなくなることも、足が腐って切断しなければならなくなることだってあるのです。国としては透析治療などで医療費が増加し続けている状況を何とかしたいと考えています。重症化は患者さん本人にとっても国民全体にとっても好ましいことではないのです。

最近の糖尿病関係の学術講演会は面白いです。新しい治療法など純粋に医学的な話よりも、どうやって患者さんに治療を受けてもらうかというテーマがあります。診察室で口頭指導し、食べ過ぎ、運動不足を怒っても治療に取り組む気持ちは大きくなりません。運動も街中のフィットネスクラブならやる気になっても、例えば病院の運動療法室ではやる気になりません。フィットネスクラブと料理教室を病院とは全く別にして取り組んでいる医療法人もあります。いかにストレスなく取り組んでもらうか、ということがテーマになっているのです。効き目の長い(服薬回数の少ない)薬も出てきています。

残念ながら標準治療を推進する厚労省の取組みでは十分な効果が出るとは思えません。語弊がありますが、楽しくストレスなく、重症化しない、つまり生活に無理なくできる糖尿病治療が望まれると思います。言葉を変えて言えば、フィットネスクラブで楽しく、食事は工夫しながら料理してみて、などと生活を楽しむ視点から考えてみたいかなと思う次第です。糖尿病治療全体もそういうように変わっていくのではないでしょうか。

医療コンサルタント
(元大阪市立大学大学院特任教授)
松村眞吾

 介護保険が大きく変わります   2018.3.12

  先に介護保険法が改正され、「現役世代並み」の収入がある高齢者の自己負担は3割になるなどの負担増、介護状態の改善を狙った「自立支援介護」の促進などが決まりました。超高齢化を受けて介護保険財政は年々、悪化していっており、負担増は避けられない状況です。また自立支援介護で介護卒業も目指したいとされています。

 自立支援介護促進については、あまり話題になっていませんが、当事者にとっては大きな影響があります。自立歩行できるようになること、トイレに独りで行けるようになることは大切なことですが、今までよりリハビリがしんどいものになるかもしれません。市町村によっては要介護の方を減らそうと無理をしてくる可能性もあります。個人の尊厳とのバランスが難しくなりそうです。

介護サービスは、介護人材の深刻な不足もあって、サービス内容が重度者の身体介助やリハビリを重視する方向に行きそうです。デイサービスは報酬を減らされて事業所も減っていくかもしれません。要介護1,2の方への生活援助(家事支援)は大幅に制限されてくるようです。介護保険事業を営む会社も立ち行かなくなるところが増えそうです。その代わりに地域のボランティアの出番を増やしたい、というのが国のやろうとしていることです。

サービス付き高齢者住宅(サ高住)など高齢者住宅も増えました。国はサ高住における訪問介護などに対する報酬も厳格化していくつもりです。世知辛いようですが、高齢者、それも75歳以上の方が増えて来るので仕方ないことなのでしょうか。

2000年に介護保険が始まってから、介護は公的な保険で賄われることになり、家族の介護で困っていた方も、ずいぶん助かったことと思います。しかし人生90年と言われて高齢者が増えて行く中、介護保険でカバーしきれなくなってきています。地域での助け合い、NPOや自治会、社会福祉協議会など活動が重視されていっています。私たちはどう考え、動けば良いのでしょうか。

まだ元気なうちから地域の活動に積極的に参加し、地域に馴染みを増やし、ウォーキングや体操などで体を動かして、などということになるかもしれません。地域に足場を作る、特に男性は群れることを嫌う傾向がありますが、それでも地域での付き合いを増やして行くことが大切でしょうか。

医療コンサルタント
(元大阪市立大学大学院特任教授)
松村眞吾

医療はこう変わる   2017.11.20

  実感しにくいことかもしれませんが、昔と比べて医療は様変わりしていってます。背景にあるのは高齢化と医学の進歩です。感染症(伝染病)が中心だった時代から、生活習慣病、慢性疾患などが中心になってきました。例えば糖尿病です。病院の入院患者の平均年齢も驚くほど高齢化しています。

   高齢者になると病気と体も複雑化します。

複数の病気で病院に通う方も多いでしょう。免疫低下でいろいろな抵抗力も衰えていっていますし、栄養状態の悪い方もいます。服用する薬の数も多くなっていきます。交通事故で骨折して入院、というのも若者ならば手術して社会復帰ですが、今やそのまま寝たきりになってしまう高齢者が多くなっている、という次第です。

 糖尿病、そして種類によってがんなども生活習慣が深く関係してきます。医学が進んでがんも「付き合う」病気になっていっています。糖尿病は生活習慣が大切とは言うまでもないことでしょう。生活しながら療養する、というのが現代における医療のテーマなのです。単純に「治す」医療から生活を「支える」存在になっていっています。

 心臓手術の名医やがん治療の権威も重要さは変わりませんが、日常的にいろいろな相談ができる、専門の病院につないでくれる、そういった「かかりつけ」の先生が大事な存在になっています。国もかかりつけ医を重視する方向で、かかりつけ医以外の病医院にかかる場合は、プラス何がしかの負担が課される可能性も出てきました。日常的な医療をプライマリ・ケアと言いますが、プライマリ・ケアを重要視するというのが今の医療です。専門医療が中心だった時代から変わりつつあります。

 最近は何かで入院しても10日、2週間で退院しなければならなくなっています。介護のことも考えなければなりませんが、病院は病気を治療する場所に特化されていきます。生活する場所で療養する。それだけではありません。予防の重要性も高まります。糖尿病は重症化すると透析など厄介な目に遭いかねません。だから、プライマリ・ケアが重要になっていくわけです。

 高齢化で病気の人が増えるなら病院を増やして医者か看護師も増やせば良いという意見もありますが、お金の問題、人口減少もあって、そうもいかない現実がります。健康長寿を目指すためにもプライマリ・ケアということを考えてみたいものです。

医療コンサルタント
(元大阪市立大学大学院特任教授)
松村眞吾

メディカルフィットネスをご存知ですか   2017.7.11

  メディカルフィットネスという言葉を聞かれたことはありせんでしょうか。文字どおり運動することで健康づくりをしようということです。「運動はしんどいし続かない」という方もいらっしゃるかもしれません。例えば糖尿病治療で運動療法や食事療法などは何かストレスが溜まるように感じてしまいます。

 もし、通院する病院とセットになったフィットネスジムがあればどうでしょうか。治療で歩け、運動しなさい、と言われてもジムに行く時間も意欲もなかなか湧かないかもしれません。病院内施設は楽しくないと思っている方、病院内ではなく、病院に関連しているが内容はフィットネスそのものというジムがあればどうでしょうか。

通院の続きの感じで通えるジムがあります。料理教室がセットになっているところも。筆者の知っているいくつかの病院では「楽しく運動、健康づくり」を実現しています。病院と続きの建物にフィットネスジム、料理教室、レストラン、自然食品の店が並んでいます。探せば、こういう施設は意外にあるかもしれません。

近くにこのような施設は見つからないかもしれません。病気予防のために、寝たきりにならないために、医療関係の人たちのいう健康長寿のために運動は大事なものです。ただ義務感になってしまうと面白くもなく続くものではありません。それは認めましょう。もちろん、糖尿病だけでなく循環器系の病気においても運動することは大事です。やらされてまで運動したくないという気持ちは分かります。それでも、そういう方に敢えて言いましょう。食わず嫌いになっていませんか。

 メディカルフィットイネスを掲げる施設を覗いてみてはいかがでしょうか。治療効果を続けさせるために工夫を凝らしているところもあります。病院だから、きっと面白くないだろうと決めつけないでメディカルフィットネスに挑んでみるのも良いかもしれません。

健康のためにと無手勝流にジョギングするのは、普通の方には良くても、体に問題を抱えている方にとっては、却ってリスクかもしれません。運動する、それを長続きさせる環境は大事であり必須となりつつありますが、医学的なエビデンス(根拠)に基づいて行わないと恐ろしい結果になるかもしれません。楽しさと効果を両立させる工夫はあちらこちらで行なわれています。まず、情報を集めてみましょう。

医療コンサルタント
(元大阪市立大学大学院特任教授)
松村眞吾

人間と幸せとは何やろう?食べることを考えよう   2017.4.17

ある仲間の経営コンサルタントが病院の差別化について、面白いことを言いました。食べることと出すことが大事だというのです。退院して口から食べられること、自分でトイレに行けること、家に帰ってそういう生活が戻ってくること、そういうリハビリをしてくれる病院が人気となる、というのです。うなづける話です。

 慢性期医療(昔で言う老人病院)の指導的立場にある医師も「これからのリハビリは歩行訓練ばかりでなく食べること、排せつのことに重点を置くべきだ」と発言しています。リハビリと言うと、病院の廊下の手すりに掴まりながら「よいしょよいしょ」と歩く訓練がイメージされますが、それだけで良いのか。退院してからの生活復帰を考えると、少し違う感がします。

一時、流行のように胃ろう造設が行われました。口から食べられなくなったら、お腹に穴を開けて、そこから「食べて」栄養を採るという次第です。本来は一時的なもので、リハビリをして口から食べられるようになったら塞ぐというものだったのですが、日本では永久に口から食べられないという患者さんが続出、非人間的だと批判されました。

 生きる楽しみって何でしょう。疑いもなく食べることが筆頭の一つとなってくるでしょう。好物を美味しく食べる。これに勝るものがあるでしょうか。よく聞く話に末期を迎えた患者さんの話があります。がん治療などで入院していた患者さんが、最後の時期を迎えるに当たって自宅に戻る、一口だけビールを飲んで、食べたいと思っていたものを口にする。満足したように微笑むといった話です。

 在宅マジック、という言葉を医療関係者がつぶやくことがあります。弱り切っていた入院患者さんが、自宅に帰ったら一時的にでも元気になるという現象です。自宅での生活、それが本来あるべき人間の姿ということでしょうか。高度医療も良いことだけれども、日常生活を取り戻すということが人間にとっての幸福だということです。

 糖尿病の食事療法も、最近はストレスにならないよう、むしろ食事を楽しめるようにという傾向が出てきたように感じます。ある保健師は「栄養のバランスも考えなければいけないが、人とお喋りしながら楽しく食べることが健康にとって大切です」と言いました。同感です。食べること、その意味を見直してみませんか。

医療コンサルタント
(元大阪市立大学大学院特任教授)
松村眞吾

今回は認知症について考えたいと思います   2016.10.31

今回は認知症について考えたいと思います。日本では超高齢化が進んでいますが、2025年には認知症の方が700万人を超えると予想されています。65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症ということになります。

 認知症は特別の病気ではないという認識が広がっています。誰もがなる可能性を持っています。恐ろしい病気でもなく、風邪と同じような「よくある病気」と言われているのです。国は街中のごく普通のクリニック、要するに地域のかかりつけ医が認知症患者さんのケアを行なうことに報酬上の優遇策を採り入れました。認知症は初期対応が重要であるとして、医療者らによる初期集中支援チームが制度化されています。地域における早期の取組みが重要というわけです。

 50歳代などで発症する若年認知症の問題に取り組んでいるクリニックがあります。認知症の方でも社会参加はできると、就労支援の活動も行っています。企業は認知症だから雇わないということはないそうです。仕事をしてくれるならば使って良いという考えです。もちろん病状が進めば仕事ができなくなります。その時は、公園清掃などで地域社会に参加します。やはり清掃活動などを行なう老人クラブの方々も「ちょっと話が長いけど、普通の人たちやんか」と一緒に活動をしているそうです。

 世間には、徘徊するとか暴力を振るうとか、認知症の方に対して避けて通る、あるいは怖がるような風潮もないと言えません。メンタルクリニックへ連れて行くのも、本人が抵抗して、なかなか難しいものです。自分自身が認知症と告知されたら、やはり嫌だろうと想像します。がんは治る可能性が高くなってきました。その他の病気も医学の進歩の恩恵を受けています。ただ認知症にはネガティブなイメージが払しょくできない、そういう部分が残っています。

 ただ、最近は認知症であることを明らかにして社会参加する方が出始めています。薬物治療だけでなく、さまざまな治療法も知られるようになってきました。地域のかかりつけ医で認知症ケアを行ないましょうというのは、認知症患者が増えるから、体制を整えようという意味と理解するのはいかがでしょうか。それもありますが、認知症の方々と地域で向き合っていく、そんな社会にしようという理解と認識を持ちたいと思います。認知症は、決して他人事ではありません。

医療コンサルタント
(元大阪市立大学大学院特任教授)
松村眞吾

大病院にかかると5,000円?高いと思いますか?   2016.6.15

この4月から大学病院や500床以上の大病院で診療を受けようとする場合、紹介状のない場合は初診で5,000円以上の特別代金を支払わなければならなくなりました。緊急の場合は例外ということですが、それでもかなり高額です。貧乏人は医療も制限されるのか、診療を抑制するのはおかしい、といった声も上がっているようです。なぜ、こんな政策が打ち出されたのでしょうか。

対象となった大病院は急性期、さらに高度急性期と呼ばれる専門性の高い医療機能を果たす役割を期待されています。働いている医師は臓器別、疾患別に特化した、高度な専門能力を持った医師たちです。例えばがん治療に当たっているとか、心臓病の専門家だったりするわけです。こういった医師らには、それぞれの専門を生かした医療を行なってもらいたい、それに集中して欲しいというのが、国の期待でもあり、医師ら自身の気持ちです。

専門外の医療に当たるのは、いわば専門技術を生かすことのできない、もったいない働き方となるわけです。街中のクリニック、身近な病院はどうでしょうか。よくある病気を診てくれて、症状に応じて専門の病院に紹介してくれる役割を期待されていると言えましょう。いわゆる、かかりつけ医の役割です。38度の熱が出た、でも自分で歩いて病院に行ける、といった時、まずはかかりつけの医師にかかることが望ましいとされています。

差がありますが、医師不足が問題となっている地域も多くあります。高齢者が増えてくると病気がちになって病院に行く回数も増えてきます。医療を受ける権利は誰にもあるのですが、大病院の医師は専門に集中してこそ社会的な利益も大きいわけです。逆に患者さんの生活背景を知り問診などにより病気を見極める技術はかかりつけ医にあるべきものです。かかりつけ医で日常的な医療を、大病院で専門医療をという分業が必要なわけです。

軽い風邪とまでは行かなくとも、本来、かかりつけ医が診るべき患者さんを数多く診療して、クタクタに疲れ果てた後で、病棟の入院患者さんの治療に向かう。医療の質にも影響してきます。

少し乱暴かもしれませんが、例えてみれば、フランス料理レストランでお茶漬けを注文することも許容されてきたのが日本の病院です。超高齢化を迎える日本では、効率よく医療を回していくべきであり、だから大病院とかかりつけ医の間などの役割分担が必要となるのです。

医療コンサルタント
(元大阪市立大学大学院特任教授)
松村眞吾

「かかりつけ」薬剤師、薬局が始まります   2016.2.3

 4月から「かかりつけ」薬剤師、薬局という制度がスタートします。お薬手帳をお持ちの方もいらっしゃると思いますが、そういったツールを使って、かかりつけ医ならぬかかりつけ薬剤師を持ちましょうという趣旨のものとなります。

 お年寄りが増えて、いくつもの病院に通院して、何種類もの薬を飲むように指示されている方が増えています。なかには飲み合わせ で悪い影響が出る場合もあります。また多くの薬をもらって来ても、正しく服用できずに捨てる羽目になったという記憶のある方もいらっしゃるでしょう。

 かかりつけ薬剤師、薬局とは、そういった現状に対して、その人に合った、副作用などが出ない、適切な薬による治療を実現していこうというものです。今まで薬剤師も、薬剤師の働く薬局も、薬というモノを扱う専門家、専門施設でした。今、求められているのは患者というヒトを対象に仕事する薬の専門家、専門施設というわけです。

特に独り住まいのお年寄りで、あちこちでバラバラに処方された多くの薬を、数が多すぎるために正しく服用できていない方などに対して正しい薬の服用していくお手伝いをする役割を果たすことが期待されています。

 自分の病気を話したくない方もいます。しかし薬は言わば毒です。薬剤師は、その薬の専門家です。正しい服用のアドバイスを受けてこそ、病気を治すことにつながります。今、治療中の全ての病気と処方されている薬、そして体調を「かかりつけ」薬剤師に示して、正しい療養生活を実現したいものです。

 今、医療界ではポリファーマシーということが問題となっています。必要以上に多くの薬を飲んで、却って害を招いている状態などを言います。自分の体を守るために、「かかりつけ」薬剤師、薬局の活用を考えていきましょう。

医療コンサルタント
(元大阪市立大学大学院特任教授)
松村眞吾

医療福祉、誰に相談したら良いのだろう   2015.2.20

 例えば無料低額診療事業というものがあります。生活に困窮されている方が、指定の医療機関で受診すると医療費が無料または安くなるというもの。ほとんど知られていない福祉制度です。相談窓口は社会福祉協議会や福祉事務所ですが、街のクリニックなどでは知らないところが多いと思います。このように医療福祉の制度は十分に活用されているとは言い難いでしょう。

 健康問題は主治医(かかりつけ)に先生に相談するべしと言われますし、介護保険のことも主治医がつなぐと期待されてはいますが、実際には医療と介護の橋渡しは上手くいっていません。友人知人を辿って、というケースも多々あります。私たちは、自身または身内が病気になったり動けなくなって初めて医療福祉のことを考えます。イザという時の相談相手は?主治医ですか?お役所でしょうか?。

 介護のことはケアマネージャーに、と言われてもどこに信頼できるケアマネージャーさんがいらっしゃるのか、それが分かりません。各地域には地域包括支援センターというものがあって、そこに相談するのが良いのではないかと思いますが、さて窓口はどこでしょうか。

 シンプルに考えましょう。地元に信頼できる民生委員さんがいれば、その方でしょう。最近は社会福祉協議会も頑張っています。役所も熱意ある福祉担当者が結構多いと感じます。民生委員や社会福祉協議会、役所担当者などを通じて、地域包括支援センターなどの専門家を紹介してもらう、といったところでしょうか。病院などは主治医の先生に相談です。主治医がなければ医師会なども良いと思います。

 最近はボランティアなどによる相談会、コミュニティカフェなども増えてきました。そういった機会も物おじせずに使っていきたいと思います。探せば直ぐそこにあります。

医療コンサルタント
(元大阪市立大学大学院特任教授)
松村眞吾

「かかりつけ医」が変わっていきます   2014.9.4

 かかりつけ医を持ちましょうと書いたことがありました。超の付く高齢化が進む中、かかりつけ医の役割は、いよいよ高まり国も新しい制度をスタートさせました。「主治医機能評価」という名前で全人的医療を行なうかかりつけ医を評価しようというものです。日常的に主治医として、治療から薬の管理、介護保険に至るまで一貫して患者さんを診る先生に新たな報酬を付いたのです。

糖尿病や高血圧の慢性病を中心に「胃腸が専門だから肺の病気は全く診ることはできません」ではなく、全人的な初期対応(プライマリ・ケアと言います)のスキルを身に付けた医師を「総合診療専門医」として認定しようということが決まりました。2017年(平成29年)に研修制度が始まる予定です。目が離せなくなってきました。

 軽い病気で大きな病院にかかることが、いっそう難しくなっていきます。大病院は重体の方が専門の治療を受ける場所だからです。だから近所にかかりつけ医を持ちましょう、というだけではありません。かかりつけ医は基本的には一人ですが、グループ化されていく傾向があります。高齢患者が増えて24時間対応が必要になってくるとグループ診療でなければ成り立たないからです。かかりつけ医=開業医の先生という単純化された図式は変わってくるかもしれません。

 「地域包括ケア」という言葉をお聞きになった方もあるでしょう。大ざっぱに言えば、ケアサービスの整った地域コミュニティを作ろうという構想です。その中で、主治医=かかりつけ医が中心の一つになってきます。制度が整えられていけば、どうすれば自分のかかりつけ医が見つかるか、も分かりやすくなっていくでしょう。  新しい専門医制度、グループ化の流れなどを見ていきましょう。主治医=かかりつけ医は大きな進化を遂げていくと予想されます。

医療コンサルタント
(元大阪市立大学大学院特任教授)
松村眞吾

「地域包括ケア」を知ってますか?   2014.6.2

 日本は高齢社会からさらに進んで超高齢社会と言われるようになりました。団塊世代が75歳以上になっていく2025年には65歳以上人口が全人口の3割、75歳以上人口が2割を占めるようになります。高齢者の生活を支える仕組みが重要になってきた所以です。

今、地域包括ケアという構想があり、その具体化が各地で始まっています。病気になっても介護のお世話になるようになっても、住み慣れた地域で最後まで生活できるようなケアの仕組み(地域包括ケアシステム)を作っていこうというものです。遠く離れた施設ではなく、自宅や地元の高齢者住宅で今までどおりの生活を続けながらケアを受けることのできる、そういった地域社会を目指すものです。

 かかりつけ医、何かの時の入院先病院、介護プランを作ってくれるケアマネージャーなど介護関係者らが地域で連携しての、つなぎ目の無いシームレスなケアの体制を目指します。各地で医療者や介護関係者、行政から民生委員や地域の自治会まで様々な地域の関係者も参加して、試行錯誤を始めています。団地の再生を絡めたところもあり、医療介護の関係だけでなく地域の参加が注目されます。 

 ここで重要となるのは主治医=かかりつけの先生を持つこと、地域包括支援センターという介護その他の総合相談窓口の存在を知っておくこと、元気な間は地域社会の中で積極的に「地域包括ケアシステム」作りというものに係わっていくことなどでしょうか。まだ目に見える存在とはなっていません。だからこそ、注目していきたいと思うのです。それがあなたの住んでいる地域で包括的なケアの仕組みができるかどうかを左右していきます。

 地域で住み続ける、ケアを受け続けることは医療だけでも介護だけでも行政だけでも出来ることではありません。地域社会も含めて医療と介護、行政などが連携して初めて可能となります。ますは関心を持ってみましょう。

医療コンサルタント
(元大阪市立大学大学院特任教授)
松村眞吾

なぜ煙草をやめるべきなのか?   2014.4

 煙草は嫌われものとなりました。昔はどこでも煙草を喫して煙を漂わせるのが普通の風景でした。今や店内全面禁煙の飲食店も珍しくない世の中です。愛煙家からは「差別的だ」という声すら上がっています。受動喫煙と言われていても、一部愛煙家は主張します。

 「ヘビースモーカーでも長生きをした人はいる」、「煙草を吸わないのに肺がんになった人を知っている」というのが愛煙家の理屈です。病気になるのは確率の問題であり、同じような生活習慣下でも病気になる人、ならない人がいます。統計で話をしなければ論にはなりません。喫煙習慣は健康に悪影響を与えることが多くの研究により明らかになっています。吸わないのが、喫煙者に近付かないのが健康にとって正しい態度です。

 肺がんなど呼吸器系の病気だけを言っている人が多くいます。喫煙の悪影響は循環器系の病気に関係してきます。検査データ的にはどこも悪くないのに目まいがすると言いつつ煙草をやめない、というのは正しい態度でしょうか。吸いたい、精神衛生上の効果がある、といった理屈は通りません。やめられない、という習慣性がもっとも怖いところです。

 生活習慣は健康に大きな影響があります。たくさん食べても、たくさん動けばエネルギーは消費されてメタボ体型にはなりにくい、という単純な摂理があります。しんどいことですが喫煙という習慣を捨てることが必要です。喫煙の害は禁煙後も20年ほど続くとか。習慣に慣らされてはいけません。

 自分を、家族を、仲間を守るためにも禁煙すべきかと思います。周りも人間関係を恐れずに「私の前では吸わないでくれ」という勇気が必要でしょう。煙草だけではなく、糖尿病も似たところがあります。習慣を改めない内にあちこちが蝕まれ、やがて苦しくしんどい闘病生活に至ります。生活習慣こそ早期の手当てが必要なのです。

医療コンサルタント
(元大阪市立大学大学院特任教授)
松村眞吾

もしかしたら、私はがん? −「浮気」ではなく紹介を受けよう   2013.12

 人間ドックで「がんの疑いあり、精密検査を受けて下さい」と言われたらどうしますか?「私はがんなのだろうか」と不安になりますね。精密検査の結果が思わしくなかったら深刻です。多くの方々がより良き治療法は無いかと幾つもの病院に行き、いろいろな情報を集めようとします。気持ちは分かります。当然のことでしょう。

 がんに限りませんが、重い病気になった時、人々は「この医者の言うことに従って良いのだろうか」と思い、他の病院に「浮気」します。名医を求めて、評判に頼ってさまよう方もいます。ここで少し考えたいのです。

 治療法は手術による外科的治療、化学療法での内科的治療、放射線治療などがあり、どういう治療法、あるいはその組合せが良いのか、患者には分かりにくいものです。ちゃんと情報を集め、適切な治療を受けるには、「浮気」より、専門のセカンドオピニオン外来に行くのが適切でしょう。最初の病院から検査データ、治療方針意見をもらって、がん治療に長けた拠点病院(がん拠点病院など)を紹介してもらって行くのです。

 大学病院だから治療水準が自動的に高いとは限りません。一般的には高い水準にありますが、細かく見れば、得意分野を持つ専門病院の方が良い場合もあります。私の知人も大学病院からの紹介で、そういった専門病院に転院、満足のいく治療を受けて元気に在宅復帰を果たしています。

 ネット時代で治療に関する情報はかなり集められるようになりました。大いに参考としたいものです。ただ最初にかかった先生に悪いから、とネット情報だけを手掛かりに他の病院を当ってみるのはいかがかと思います。医師の意見を聴いた上で、然るべき専門病院を紹介してもらうべきかと思います。自分の体のこと、遠慮は要りません。

医療コンサルタント
(元大阪市立大学大学院特任教授)
松村眞吾

専門医って?知っておきたい医師の専門分野   2013.6

 新しいクリニックが開業しました。看板には「内科」とあります。胃腸が悪い貴方は、この近所に開業したクリニックの先生を「かかりつけ」の先生にしますか?

医師免許は一本です。麻酔科は別として医師は看板を自由に掲げることができます。優秀な先生方のこと、それでも良いのですが、やはり「この先生の専門は何だろう」と気になります。皮膚科の先生に眼を診てもらうのは、やはり抵抗があります。何を勉強して診療されてきたかは、気になって当たり前。情報は集めておくべきでしょう。

 内科クリニックと看板にあっても、院長先生にはそれまで歩んできたキャリアというものがあります。そして多くの医師は専門の学会に所属し、それぞれの学会で定められた選考過程を通って認定医や専門医の資格を取っています。専門医資格については、学会によって難度に差があって見直しが国によって進められていますが、医師の専門に関する一応の目安になっていることは間違いありません。

 院長先生が何に得意かを知る手掛かりになることは間違いないでしょう。

 内科クリニックは数多くあります。他の診療科と違って、外科出身の内科クリニック院長先生もごく普通の存在です。HPなどで簡単に確認できる場合も多いかと思いますが、出身の大学医局や勤務していた病院の診療科などと併せて認定医、専門医資格などを知ることは可能です。胃腸の専門家だった先生に心臓の弱い方が「かかりつけ医になって下さい」とお願いして、戸惑う院長先生もあるかもしれません。頭を下げられれば断りにくくなることも。患者の側で情報収集をしておくべきかとも思います。

 自分の身体状況に合ったお医者さんをかかりつけ医に選びたいものです。その他にも手掛かりはありますが、認定医や専門医の資格は一つの判別基準になることでしょう。

医療コンサルタント
(元大阪市立大学大学院特任教授)
松村眞吾

夜中に高熱!どうしますか?   2013.4

 夜中に高熱が出て苦しい。そんな時、どうしますか?夜間・休日診療所に駆け込みましょうか?救急車を呼びましょうか?コンビニ受診と批判されて、安易に救急車を呼ぶなとも言われます。と言っても緊急時は背に腹は代えられません‥

実は、そんな時のために電話サービスがあります。各都道府県事業として実施されているもので「※7119」に電話すると看護師らのスタッフによるアドバイスを得られます。15歳未満の小児の場合は「※8000」です。都道府県によって実施状況に違いがありますが、メモしておきたい番号です。

 実は民間の事業としても24時間健康相談サービスはあります。突然の高熱に焦って救急車を呼ぶというのも普通の感覚としてよく分かりますし、昼の時間の場合、救急車でなくタクシーで行けば、長い時間、待たされる羽目になることになったりします。だから救急車を呼んで当然だろう、というわけにもいきません。

 基本的には「かかりつけ」の先生を持って日常的な健康管理に努めることです。自分の体を知っておけば、急な体調悪化も何が原因かが分かりやすくなります。もちろん子供の場合などは「何かあったらどうしよう」と悪い方向に考えてしまい勝ちです。そういう時こそ、落ち着いて考えたいわけですが、相談窓口があれば助かるわけで、それが※7119であったり※8000であったり民間のサービスであったりするわけです。

 健康に関するだけでなく、緊急事態!の時は状況を理解して適切な手を打つことが大切です。東日本震災の津波の時も、そうやって落ち着いて避難し多くの人命が救われた地域がありました。夜中に休日に、高熱が出たり我慢できない痛みがあった場合も、適切な対応を行なうためにも専門家に相談するのが良いと思います。電話番号、メモしましたか?

医療コンサルタント
(元大阪市立大学大学院特任教授)
松村眞吾

病院を退院したら   2012.12

 手術が終わって体の状態が落ち着いてきたら退院ということになります。病気前より体力が落ちて生活していけるだろうかと不安になります。そんな時には誰に相談して、お世話になることを考えるべきでしょうか。

 病院にはMSW(メディカルソーシャルワーカー)という相談員が居ます。退院調整看護師という存在もあります。生活のことはMSWに、退院後の医療のことは担当看護師に相談するのが良いでしょう。かかりつけの開業医を居られる場合は、その先生にご相談されるのが良いかもしれません。かかりつけ医は自分の体のこと、生活のことをよくご存知の場合も多いからです。

 介護が必要となる場合など、ケアマネージャーがケアプランを立ててくれます。MSWらが紹介してくれるでしょう。地域包括支援センターという存在があります。地域でのセンター所在地を調べて相談に行ってみてはいかがでしょうか。

役所や地域の民生委員がいろいろな相談事に乗ってくれる地域もあります。役所というと役所仕事などと敬遠されるかもしれませんが、福祉担当の方は熱心な場合が結構あります。民生委員も人によりますが、頼りのなる存在であると聞きます。

 もちろん、今の時代ですから、ネットで調べる手もあります。退院後の診療を受ける病医院についてネットでいろいろと検索してみると自分に合ったところが見つかるかもしれません。あるいは口コミの評判を確認できたりします。

 家に帰ったら、場合によっては施設に入るかもしれませんが、「自分らしく」生きていくために何があるのか、をキチンと知っておきたいと思います。遠慮は要りません。患者さんとご家族にとって、これからも自分たちの生活が続きます。いわゆるQOL(生活の質)は大切にしたいものです。そのために自分たちだけで悩む必要はありません。

医療コンサルタント
(元大阪市立大学大学院特任教授)
松村眞吾

診療科を正しく理解してますか?   2012.9

 病院に行けば様々な診療科の名前が掲げられています。内科と外科の違いくらいは分かると思いますが、内科だけでも消化器内科、呼吸器内科、循環器内科から内分泌内科、血液内科などに至るまで多種多様です。どの診療科にかかるべきなのか分からなくなります。

 そもそも、例えば整形外科と形成外科の違いを理解している人がどれだけ居るでしょうか。因みに整形外科は骨など身体内部からの痛みを扱い、形成外科は体表、つまり皮膚科の外科版と思って良いでしょう。心療内科は心の病気を扱い、神経内科は脳神経外科の内科版で神経の病気を扱います。

 昔は大雑把に言えば、内科と外科でした。大体の病気は開業医の先生のところで診てもらえば良かったのですが、今の時代はどうすれば良いのでしょうか。一つはHPなどで先生の経歴をチェックすることです。専門医資格も判断材料の一つになり得るでしょう。

 大きな病院は専門分化がかなり進んでいます。かかりつけの開業医の先生に相談することで適切な診療科にたどり着くこともあります。総合診療科という診療科にかかることもお薦めです。

総合診療科では日常的な病気の診療の他に、原因がはっきりしない病気、複数の原因が絡んだ病気などを扱います。的外れな素人判断ではなく、医学的根拠に基づいてどの診療科で診療を受けるべきか、を決めてくれます。

ネットなどでの情報収集も良いでしょう。ただしネット情報は玉石混交と思って下さい。正しい理解を助けるための道具くらいに思って活用することが大切です。

お年寄りにはいつも通院している整形外科で何でも診てもらうという方も多く居ます。それが良い悪いではなく、日頃からかかりつけの先生を作っておいて相談できる関係を持つのは必要です。専門分化が進む医学。貴方のことをよく知るガイドが必要です。 

医療コンサルタント
(元大阪市立大学大学院特任教授)
松村眞吾

身近な健康相談相手になるかも   2012.5

 昔は保健所が身近な存在でした。いつの間にか保健所も遠い存在になったように思います。そして保健師の存在も縁が無くなったと感じます。そもそも保健師というのは、どんな仕事なのでしょうか。

 保健所に所属して地域の保健衛生の向上に努めてきたのが行政の保健師です。衛生状態は格段に良くなりました。そのせいか保健師の活躍の場が狭くなったのでしょうか。介護保険が始まってケアマネージャーなどの各種専門家が活躍するようになりました。保健師の仕事とは違うのですが、身近な相談相手としての存在は保健師から他に移ったように感じます。

 それでも保健師の仕事は重要です。企業で働く人々にとって、ストレスの多い仕事、職場が増えています。きつい仕事で体調を崩す人も多くなっているようです。従業員の健康維持は企業にとって大きな課題となっています。産業医の先生は数少なく相談相手には敷居が高い存在です。そういう時の相談相手として保健師がいるのです。

 医師がやや理屈っぽく説明するのに対して保健師は分かりやすく話してくれます。例えば食事については「栄養バランスに神経質になり過ぎるより独りで食べないこと。誰かと一緒に食べれば、それだけでゆっくり食べるようになるし体には良いですよ」と言われると納得して実行しやすくなります。

 一般の方にとっては保健師と看護師は別の存在です。保健師が看護師として働けることなど知らない人の方が多いのではないでしょうか。生活指導、地域や企業の保険衛生のプロフェッショナルとしての保健師をもっと活用したいと思います。例えば企業においてです。企業で働く皆さんに、企業経営者の方々に、保健師の存在意味を理解してもらい、活用して頂くのが早いと思います。地域の保健師にも頑張って欲しいと思っています。

医療コンサルタント
(元大阪市立大学大学院特任教授)
松村眞吾

人は様々、病気も百人百様と知るべし   2012.4

 一人として同じ人は居ないと言われます。名前も違えば外見も違うし、考え方も趣味も人それぞれです。いろいろな人が居るから世の中に文化が生まれ、科学が発達し技術が花開きます。ダイバーシティという言葉がよく使われるようになりました。多様性という意味です。同じ色ばかりでは街も企業も学校も、病院でもより良いものになりません。

 イレッサという肺がんの薬があります。副作用で亡くなる方が出て問題となりました。特効薬として劇的に効き闘病生活から復活された方も居ます。要するにイレッサには治療効果の高かった方と却って亡くなるに至った方の双方のケースがあったというわけです。

 このことは同じ病気であっても患者さんによって治療法が違うということを意味します。「これでがんが消えました」といっても、それが真実であっても、他の患者さんのがんも消えるとは限らないのです。病気も百人百様と知りたいものです。

 お医者さんが検査データを見て首を傾げて「どこにも異常がありません」と言われることはよくあります。精神的なものから来ている体の不調は原因がよく分からないケースもあります。西洋医学は症状には原因があるとして治療法を考えます。漢方はこの痛みにはこの薬が効くというように、症状に対応して治療がなされます。医学も様々です。

 このように病気とその治療は私たちが思うほどシンプルな関係にはありません。病気も様々なのですから。では、私たちはどうすれば良いのでしょうか。一つはかかりつけのお医者さんを持つということでしょうか。健康履歴から家族のことまで知ってもらっておく。自身でマイカルテ、健康手帳を作っておくのも一つの手です。

 知人はイレッサが効きました。喫煙歴が無くホルモンバランスが良かったとか。背景が分かれば治療法もより的確なものとなります。

医療コンサルタント
(元大阪市立大学大学院特任教授)
松村眞吾

予防接種について知っておきたい   2011.10

日本は諸外国に比べて予防接種については遅れた国と言われてきました。副作用による問題など、行政も及び腰であった時代があったためですが、そのために予防接種を受けるのは良くないことだと誤解する人も多かったのではないでしょうか。

 もちろん100%安全というわけではありません。特に子供の場合は心配も残るでしょう。しかし感染症の怖さも同じようにあります。予防接種で重い病気になることから身を守ることの意義を考えたいものです。

近年は、Hibワクチン、小児向け肺炎球菌ワクチン、子宮頚がんワクチンなど、新しいワクチンが登場し注目されています。何れも世間の親御さんの関心が高いものとなっています。公費助成を行なう自治体も拡がってきました。子宮頚がんワクチンなどは中高生が接種適齢期とされています。20歳代でも効果はあるとの研究もあるようですが、タイミングを逃さない方が効果も高いようです。

ポリオの不活ワクチン(生ワクチンより安全性が高いと言われてます)接種も近いようです。予防接種というとインフルエンザを思い出しますが、それだけではなく様々な種類があります。もちろん大人向けもあります。

感染症の怖さは昔と変わらないのではないでしょうか。衛生状態は良くなっており、感染症は大部分、過去のものとなりました。逆に本当の怖さを、現代人は知らないとも言えるわけです。どんな病気も予防が大切なことに変わりありません。

感染症のこと、ワクチンのこと、その効果と安全性のこと、いろいろと知っておきたいことがあります。一部の偏った情報に左右されず客観的な情報を収集して、予防接種に対して前向きに考えたいと思います。

もちろん受ける側の体の状態も十分に把握した上で受けるべきです。何事も十分な知識に基づいて行動すべきなのです。

医療コンサルタント
(元大阪市立大学大学院特任教授)
松村眞吾

口コミをどこまで信じていますか? ―意外にあてにならない評判も―         2011.9

 どの病院にかかろうかと迷う時、何を頼りにしますか。家族や知人・友人から評判を聞いてみて選ぶ、という人も多いかと思います。実際、流行っているクリニックの院長先生にお伺いすると「口コミでの評判です」と答えられます。口コミは最強の判断材料となっていると言っても過言ではないでしょう。

 都道府県の開設する医療情報サイトに個別医療機関の情報が、ある程度まで公開されるようになりました。自院のHPに専門分野や提供医療の特徴について詳しく掲載するところも増えてきました。口コミ以外の、あるいは口コミを裏付ける手段が増えたと言えますが、口コミ自体の価値は落ちていないという見方もできます。

 ところで口コミは、どこまで信頼できるのでしょうか。病院、特に近くのクリニックにかかって満足できたという場合、治療効果そのものよりも「話を聴いてもらえた」とか「先生が優しくて安心できた」といったことが大きなウエイトを占めています。日常的な病気ならば問題ないのですが、重い病気の可能性がある場合は、口コミの内容を確かめた方が良いかもしれません。優しい=腕が良いというわけではないからです。

 世の中には口コミを商売のネタにしている業者もあります。ネットの口コミサイトがありますが、そこに不自然でない形で幾つかの投稿をします、という売り込みをしているのです。まさに口コミを創るというわけです。内容的に嘘がなければ良いのかもしれませんが、違和感があるのは確かです。

 「抗生物質を出してくれない」というのは、悪い評判でなく良い評判と理解すべき場合があります。普通の風邪には抗生物質は効かないとされています。口コミの評判の一つひとつについて、その内容を確認する必要があります。まずは複数の人の意見、評価を訊いてみることから始めるべきでしょうか。院長先生のキャリアなどからも分かることがあるはずです 。

医療コンサルタント
(元大阪市立大学大学院特任教授)
松村眞吾

「かかりつけ医を持ってますか」―大病院へ行く前に―   2011.6

「かかりつけ医」のことについて改めて書きたいと思います。かかりつけ医を持つということはなぜ大切なのでしょうか。多くの患者さんは医師に高い専門性を求めます。だから大学病院などの大病院指向が強くなります。

 この場合、専門性とは特定の病気、特定の臓器に関する専門性を意味しています。心臓の専門医といったものです。ここで考えて頂きたいことがあります。人間の身体は複雑なものです。厄介なことに心の問題も絡みます。腰痛の悩みを頭の専門医に診てもらうのは、間違いではないかもしれませんが適切ではないでしょう。

かかりつけ医とは、特定の病気や臓器ではなく「あなたの専門医」を意味します。日常からかかりつけ医として、健康の相談に乗ってもらう先生を決めておきたいと思います。

病気など健康を損ねる背景には、日常生活のことがあります。家庭のこと、仕事のこと、バリアフリーでないなど家の構造など、いろいろな問題が絡んでいます。身体の痛みが、実は心の問題から来ていることもあります。内科の患者さんの多くが心の病にかかっているということです。日頃の健康状態や生活背景も知ってもらっていて、初めて正しい診療を受けることができるというものです。かかりつけの先生を持ちたいというわけです。

風邪で大病院にかかるという方もいます。病院の先生方は入院患者さんや病状の重い外来患者さんの診療で手一杯です。大学病院などは軽い症状の患者さんを診るところではなく、また一見患者さんのことを正確に診ることができるかどうかも疑問です。かかりつけ医と違って、その患者さんの日常を知らないからです。期待されている役割が違います。

大病院に行く前にかかりつけの先生に相談してみましょう。どこの病院が病状に合った専門性を持っているか適切か、も素人判断ではなく、かかりつけ医のデータベースの方が信頼できると思いますが、いかがでしょう。

医療コンサルタント
(元大阪市立大学大学院特任教授)
松村眞吾

代替療法をご存知ですか?   2011.4

代替療法という言葉をお聞きになったことがあるでしょうか。現代医学の中心である近代西洋医学とは異なった医療のことを指します。もっとも知られたものとしては漢方があります。漢方は中国に発して日本で発展したものですが、今では保険診療の対象ともなってその効果が多くの場所で証明されています。

問題となったものもあります。最近ではホメオパシーがメディアで騒がれました。その詳しい内容は説明を省きますが、科学的に必要な治療を受けなくさせるといった批判が飛び交いました。効果を主張する意見には「それはプラセボ効果に過ぎない」という反論が寄せられます。プラセボ効果とは偽の薬でも一定の効果がある、というものです。信じれば症状の改善もあるのが人間の体の不思議なところです。

ホメオパシーの是非を論じるものではありません。この他にもプロポリスを飲んでがんが治ったとか、いろいろな話が流布しています。これらの代替療法が漢方と異なるところは、詐欺的な商行為は論外としても、「効いた」という声があるかと思えば、エビデンスがないという疑問もあるというところです。

元々、いろいろな治療法でも効く人と効かない人があります。イレッサという薬は肺がんの薬ですが、この薬で劇的な回復を見せた患者さんもあれば、ご存知の方も多いと思いますが副作用で亡くなった方も多くいらっしゃいます。ましてや多くの代替療法では、いかにも万人に効くようなことが喧伝されたりしますが、効果があるにしても、多くの場合それは偶々、その方に合ったということでしかありません。

近代西洋医学的な考え方は、いわば毒である薬でもって病気を治そうというものであり、それに対して免疫力を高めて自然治癒力を生かそうなどという代替療法でよくみられる考え方には一定の理があります。しかし病気もそれから人間も千差万別であることを忘れてはならないでしょう。

近代西洋医学も絶対ではありません。その意味で代替療法の情報収集もやって良いでしょうし、自然治癒力の大切さも知っておきたいと思います。ただし代替療法の多くは、近代西洋医学以上に絶対ではないと心得るべきでしょう。

大阪市立大学大学院 経営学研究科の特任教授 松村眞吾

ネットを活用する   2011.1

 パソコンや携帯電話で医療情報を調べることが一般的になってきました。地名と病名(あるいは診療科)を打ち込んで検索する場合が多いようです。急速なネット普及に対応するべく、HPを開設する病院やクリニックも増えています。ここにきてネットのリテラシー(読み解き能力)が重要になってきました。

診療時間などの情報を見るためだけにネットを利用するのはもったいないと思います。HPでは院長先生のプロフィルが詳しく載っていることもあります。キャリア、専門分野などの情報です。コラムや、中にはブログを書いている先生もいます。診療の方針などを知る良い機会となります。

都道府県が作っている医療情報ネット(名称は様々です)には、各医療機関の情報が詳しく載っています。病院やクリニックのHPと合わせて利用してみてはどうでしょうか。

ネット上では様々な医療情報が溢れています。どれを信用して良いのか、注意しなければならないと思います。無責任な情報発信がネットでは可能です。HPや専門サイトならば、その開設者をチェックするのも一手でしょう。代表者や役員名簿、著名な組織や医療・研究機関などがリンクしているかどうか、などが手掛かりです。がん治療などでは根拠薄弱な説が飛び交っています。

 口コミサイトもどこまで信じて良いものでしょうか。悪意ある書き込みもあったりします。複数のサイトで内容をチェックしてみることが最低限、必要でしょう。医療専門のサイトもあれば、ヤフーの「知恵袋」のような相談投稿サイトに出ていることもあります。

 ネット上の情報は玉石混交です。複数のサイトに当り、先に述べた都道府県の情報ネットなどで確かめながら、情報を吟味したいものです。こういう注意を払えば、細かな専門情報や遠隔の情報とネットでの情報収集は可能性が拡がります。

大阪市立大学大学院 経営学研究科の特任教授 松村眞吾

人間ドックにかかる・健康診断を受ける   2010.11

 定期的に人間ドックにかかったり健診を受けてますか。健康に気を遣って毎年、必ず受ける人があるかと思うと、全く受けない人がいます。中には「健診を受ける意味はない」と言い切る人もいて、有害論を説く本もあるくらいです。メタボ健診も好評とは言えない状態です。

 「健診なんて意味がない」。果たしてそうなのでしょうか。検査データの細かな数字だけで健康状態が判断されるわけではありません。健診結果が良くても病気になる人がいっぱいいます。確かに、例えばコレステロールの値だけに拘わる意味はないでしょう。しかし異常値とされる値が、何の根拠もなく弾き出されたものでないのも確かです。

  特定健診、俗にいうメタボ健診も、単なる机上の理屈だけで組み立てられたものではなく、また健診の効果もある程度検証されています。身近な人達の証言だけで「意味がない」と決めつけるものでもないでしょう。

 ドックや健診は何のために受けるのか。がんの早期発見という意味があります。病気を早めに見つけるということは大切なことです。さらに重要なことを多くの人々が見落としているような気がしてなりません。それは自分の身体を知っておくということです。

 毎年の検査結果で身体の変化が分かります。平生の状態を知っていれば、検査値の示す警告の意味も分かって来るでしょう。病気の前兆を知る。そういった効果は大きいと思います。そして生活習慣です。単なる健康オタクでは人生が楽しくないでしょう。無理をしない範囲で、どんな生活を送るべきか、それを知る手がかりがドック・健診にあります。

健康のためと、無理なジョギングをして心臓の病気で亡くなった方もいます。食べるものも人によって健康に良いものの内容は異なるはずです。人の身体はそれぞれ違うもの。先ずは自分の身体を知りたいものです。

大阪市立大学大学院 経営学研究科の特任教授 松村眞吾

専門医はどこにいる?−医療機能情報提供制度をご存知ですか?   2010.9

専門の先生に診てもらいたい。そんな時、専門医情報をどこで集めますか?多くの場合、近所のかかりつけ医のところで紹介状を書いてもらいます。かかりつけ医とは健康に関する相談・アドバイザーだからです。かかりつけ医を持っていない場合、ちょっと詳しく調べたい場合はどうでしょうか。

 ネット検索で当ってみるのが一般的となってきました。友人知人の伝手でいろいろな情報を集めることもあるでしょう。口コミ情報の収集です。雑誌などの記事に頼る場合もあります。ただし、このようにして集めた情報は玉石混交の可能性もあります。どうやって見極めていきますか?

 学会が認定した専門医ならば、その分野のプロといえます。そういった専門医はどこにいるのか。女性だから女医さんの情報が知りたいとなれば、それも調べられます。休日夜間診療所はどこにあるの?から、ホームステイしている外国人が病気になったが外国語で診療を受けられる病院は?に至るまで、さまざまな疑問に対して答えてくれます。

 大阪府の場合は「大阪府医療機関情報システム」という名称で、兵庫県は「兵庫県医療機関情報システム」、京都府は「京都健康医療よろずネット」という名称でHPが立ち上がっています。家の近くにある専門の先生、それが意外と簡単に見つかるかもしれません。

 大きな病院などでは「医療機能評価」という公的な審査を経て、その評価内容をHPに掲載しているところもあります。医療機関は宣伝広告の内容が規制されていて、なかなか内容が分からないという声もありますが、一方で情報公開が進んできています。早速、ネットでの検索から始めてみませんか。

大阪市立大学大学院 経営学研究科の特任教授 松村眞吾

評判の先生を探すには −名医リスト・病院ランキング本は使えるか   2010.7

 自身が、あるいは家族が病気になった時、腕の良い信頼できる先生は、どこにいるのかと評判を聞いて回った経験は、どなたにもあると思います。意外に難しいことだと感じる方も多いのではないでしょうか。

 名医リスト特集が週刊誌に載ったりします。病院ランキング本が出版されることもあります。頼りになる存在なのでしょうか。評価は難しいと思います。信頼できるものもあれば、残念ながらそうではないものもあります。例えばネット調査でのランキングでは、若い年齢層のよく通う産婦人科や小児科が上位に来る傾向があるのではないでしょうか。

  患者さんの満足度で評価する。これは必ずしも治療実績に通じるものではありません。待ち時間対策をよく考えているから、医療水準が高いわけではありません。満足度というものは主観的なものになりがちだと知る必要があるでしょう。

 いわゆる口コミが最も信頼できると考える人々は多いでしょう。病院やクリニック側も 口コミには気を使います。患者さんは関係者の前では思ったことを言わないものですが、知人・友人にははっきりと言うものです。本音で語られる口コミでの評判が信頼できるとされる所以です。ただ、患者さんの言うことをよく聴いてくれるから良いのか、腕の良い専門の先生を紹介してくれるから良いのか、評判の内容をよく確かめる必要があると思います。

 クリニックの先生では、やはり患者さんのことをよく理解してくれて適切な専門病院を紹介してくれる先生が頼りになるのではないでしょうか。評判に頼るだけでなく、例えば健診などで訪れて、自分自身で確かめてみるという方法もあります。いくら良い先生でも相性が悪くて‥ということもあるでしょう。

神の手と言われるような名医に手術してもらいたいという時はどうでしょう。個別の先生もですが、病院の評判がより大切と思います。HPなどに治療実績が掲載されていたりします。自分で確かめる、それが大切です。

大阪市立大学大学院 経営学研究科の特任教授 松村眞吾

在宅での療養は不安です‥
−「在宅療養支援診療所」をご存知ですか?   2010.4

 入院といえば昔は1ヶ月も2ヶ月も病院に入ったままだったものですが、最近では「治療は終わりましたから早く退院してください」と言われて途方に暮れる患者・家族もいらっしゃいます。リハビリ病院や老人ホームなどの施設に移れれば良いですが、自宅に帰って療養するとなるとどうでしょう。

 在宅での療養。元の自宅でなく高齢者住宅などに入居してのケースもありますが、ナースコールもない、先生がすぐに飛んで来てくれない、そんな在宅での療養が不安だというのは自然な思いです。でも家が一番、というのは誰しもが思うこと。気持ちが落ち着くのは、生活する場で過ごすからです。ホッとする場所での療養。安心できる仕組みがあれば良いのにな、とお思いになるでしょう。

 「在宅療養支援診療所」をご存知でしょうか。名前はお聞きになった方も多いと思います。要するに先生が定期的の訪問してくれて、24時間対応の体制が整っている診療所(クリニック)のことです。夜間に容態が急変した時も訪問看護師に連絡すれば適切な対応をしてくれます。必要な場合は先生が飛んで来ます。緊急入院先の提携病院もあります。

 最近はクリニックも増えて競争が激しくなってきました。そのせいもあるのでしょうか。大阪府下などでは在宅医療を手掛けようと、多くのところが在宅療養支援診療所の届出を行なっています。その数は1,000院以上です。もちろん積極的なクリニック、一応、名乗りだけ挙げておこうかという開業医とさまざまですが、安心して在宅療養できる体制をサポートしようという先生が増えて来ているのは確かです。

 入院した病院にある地域連携室に相談したり、先の紹介したワムネットなどで検索して問い合わせてみたりしてはいかがでしょう。在宅での療養をサポートする仕組みはパーフェクトではないかもしれません。それでも在宅療養支援診療所の存在は助けになるはずです。諦めずに調べることから始めてみませんか。

大阪市立大学大学院 経営学研究科の特任教授 松村眞吾

「ワムネット」をご存知ですか?
−ネットで役立つ情報サイトを知ろう   2010.3

 ワムネットをご存知ですか。独立行政法人の福祉医療機構の運営している福祉・保健・医療の情報サイトのことです。何かと便利な情報源として私たちはよく利用しています。 例えば、親が在宅で療養する場合に、どこに診てくれる先生のクリニックがあるのか、で悩むことがあります。遠方に暮らしている場合など、情報が不足していますから不安になります。ワムネットでは、24時間対応してくれる在宅療養支援診療所を調べることが簡単にできます。介護施設の情報も豊富です。外部の機関の評価(外部評価)結果も掲載されていて、どこの施設が適当なのかを判断するのに役立ちます。

 民間企業が運営している医療機関などの情報サイトも数多くあります。概要を知るだけなら、それで十分に役立ちますが、より詳しい情報を知ろうとする時、また細かな行政の情報を調べる時にワムネットの情報量は圧倒的です。医療や高齢者介護だけでなく、障害者福祉や児童福祉の関係も網羅されているので、あちらこちらのサイトを巡らなくてすみます。一度、覗いてみてはいかがでしょうか。
>>ワムネット http://www.wam.go.jp/

 この他に医療機能情報提供制度という仕組みがあって、各医療機関の所在や診療時間だけでなく、専門に関する情報から実績情報まで、かなり細かい情報が都道府県の開設する専門サイトに掲載されるようになっています。
例えば大阪府の場合、「大阪府医療機関情報システム」という名称で、府下の医療機関の一覧情報を公開しています。
>>「大阪府医療機関情報システム」

 医療と福祉に関する情報、特に個々の医療機関の情報ベースに、一覧的にアクセスすることは難しいことでした。知り合いを頼りに、また口コミ情報を求めて苦労した経験は、誰にもあることです。もちろん、かかりつけの先生に相談することをお勧めしますが、ネットの時代、情報も、こんなに手軽に手に入れることができるようになった、そのことを知っておけば安心ではないでしょうか。

大阪市立大学大学院 経営学研究科 特任教授 松村眞吾

「退院してください」と言われたら−どこに相談すれば良いのか   2010.1

 社会的入院が問題となって、最近では一定の治療が終わると早期の退院を迫られるようになりました。しかし、家の構造や家族の事情などで退院しても行く場がないと途方に暮れる患者さん、ご家族が多くいらっしゃいます。どうすれば良いのでしょうか。

 しっかりした病院であればMSW(メディカルソシャルワーカー)という相談担当者がいます。早めに遠慮なく相談することが大切です。介護が必要な高齢の方であればケアマネージャーという介護プランの専門家に相談することをお勧めします。市役所に問い合わせる、あるいは民生委員に訊いてみるなどされてはいかがでしょうか。医師は医療の専門家ですが、介護のことのプロがケアマネージャーです。
最近は、在宅での療養をサポートしてくれる開業医の先生が増えてきました。在宅療養支援診療所という登録をしているクリニックでは、24時間365日サポートの体制を採っていて安心できます。MSWに教えてもらってはいかがでしょうか。役所やインターネットでも調べられます。在宅医療を手掛ける先生と訪問看護師の連係プレーで、多くの独居の方も安心して生活しています。退院後も引き続いて治療を受けなければならない場合は、病院の先生に相談して信頼できる開業医の先生を紹介して頂くことが肝心です。
施設に入所しなければならない場合、リハビリを継続して受け続けなければならない場合など、施設不足もあって困り果ててしまうこともあります。一方で、低廉な有料老人ホームや高専賃と呼ばれる高齢者住宅の整備も進んでいます。独りで悩んだりせずにMSW、市役所や民生委員、ケアマネージャーなどに積極的に相談することが的確な情報入手と問題解決への近道です。厚生労働省所管の法人が運営するワムネットというサイトもいろいろと情報が載っています。
http://www.wam.go.jp/
ワムネットについては、改めて紹介します。とにかくいろいろな手があり、そのための情報を入手することが大切なのです。

大阪市立大学大学院 経営学研究科 特任教授 松村眞吾

なぜ薬は外の薬局で買うのか?−薬の専門家、薬剤師さんを知ろう       2009.11

 「病院で薬も出してれくれば早くて楽なのに」とお思いの方もいらっしゃるでしょう。現在、多くの病医院では医薬分業ということで、処方箋の発行だけして、薬は外の薬局で買ってくださいというのが一般的になっています。医薬分業って何?なぜ薬局で買うの?という疑問はもっともです。もちろん、そこには理由があります。

 お医者さんは病気を治療してくれる専門家ですが、薬の専門家=プロは薬剤師さんになります。近年、多くの新薬が開発され、かつジェネリックという特許期限が切れた薬を、成分製法をそのままコピーした薬が推奨されています。医療費を少しでも抑えようという政策です。その他、副作用に関しても世間の目が厳しくなり、薬の管理が難しくなってきています。そういうこともあって薬のことは専門家である薬剤師さんのいる薬局に任せようとなってきたわけです。
「わざわざ薬局に行かせるなんて」という声もありますが、例えば多くの種類の薬を処方される高齢者の間では、薬のことを詳しく説明してもらえると、薬局での購入(医薬分業)を評価する声は意外と多いのです。お医者さんも、個々の患者さんの病歴や、どんな薬を飲んでいるかを聴いたうえで薬の処方をしています。でも新薬とジェネリックの薬効が微妙に異なるケースもあるといいます。薬の専門家がチェックすることにより、より適切な薬を選んでもらうことができます。
インフルエンザが流行する季節、診察室であれこれ薬のことを訊くのもためらわれる程、病院や診療所は込んでいます。でも、この薬で良いのだろうかという不安もないではないでしょう。そんな時、薬局で薬剤師さんに相談すれば、きっと納得いく答えが返ってくると思います。もちろん「お薬手帳」などを活用することが肝心です。

大阪市立大学大学院 経営学研究科 特任教授 松村眞吾

診療科は何を教えてくれる?−専門や得意分野が見えてきます       2009.8

 クリニックには「内科・小児科」とか「胃腸科」とか、いろいろな看板が揚がっています。そこの先生がこの分野を診ます、という診療科の名前です。目に問題ある時は眼科を、肌のアレルギーがある時は皮膚科のお医者さんに診てもらうことと思います。でも意外に無頓着な患者さんも多いようです。そんな覚えはありませんか。

 診療科には、院長先生の思いが込められたりしています。例えば「循環器科・消化器科医・呼吸器科」は心臓や血管を専門にしてきた先生の場合が、比較的多いとされます。得意分野は真っ先に書く傾向があるからです。「内科・胃腸科」の場合は消化器外科の出身だったりします。少し重い胃腸の病気の時、専門病院とのパイプが太いかもしれませんね。
単なる「小児科」ではなく「小児科・アレルギー科」はアトピーに強い先生かもしれません。このように「名は体を表す」なのです。診療科名で当たりを付けて、院長先生の専門を問い合わせてみるのも良いかもしれません。
最近は見慣れない診療科も登場しています。お気づきの方も多いかもしれません。内科でも、漢方を得意にする先生のクリニックが「漢方内科」を名乗っている場合があったり、女性の病気に強いクリニックが「女性内科」という看板を揚げていたり、「糖尿病内科」と得意分野をズバリ打ち出しているクリニックもあります。以前は規制があったのですが、最近はかなり自由に診療科を名乗れるようになったので、いろいろな診療科が登場しているというわけです。
たくさんの診療科を名乗っているところもあります。新しいクリニックの場合、規制に則って専門の分野を、1つか2つだけ、大きな文字で書くことになっています。小さな文字で書かれている診療科は、サブの診療科というわけです。
診療科だけではありません。各分野の学会が認定した専門医や認定医、専門外来、例えば「不整脈外来」や「アレルギー外来」を掲げている場合もあります。細かに見て行けば、どのクリニックにかかってみれば良いか、ネットなどと合せて情報収集すれば役に立ちそうです。クリニックの看板はいろいろなことを教えてくれます。

大阪市立大学大学院 経営学研究科 特任教授 松村眞吾

頼りになる看護師さん−気軽に相談できる健康コンサルタント          2009.7

 お医者さんに診察してもらう時、どうしても緊張してしまうという方も多いでしょう。しんどくてたまらないのに、難しい専門用語を使って病状を説明されても頭に入らない、という経験もよくあること。でも先生は多忙だし、一生懸命、説明されるので、分からないことを質問するのは気が引けてしまう、というのが普通の患者さんの立場だと思います。

 何か良く分からないまま「分からないことはありませんか」と訊かれても「いや、特にないです」と答えてしまうのが人間の性というものでしょう。皆さんは、そのまま病院やクリニックを後にされていませんか?自分の身体だから、やはり病気のことは知っておきたいものです。安心したいから病院に行くということは、よくあります。熱が下がっても、なぜ熱が出たのか知りたいから診察を受ける、といったことです。だから分からないまま帰って行くのは不本意でしょう。

 あるクリニックでは、看護師さんがお帰りになる患者さんに声を掛けています。「今日の診療で何か気になることはありませんか?」と一声を掛けるのです。看護師さんなら気後れすることなく、分からないことを尋ねることが出来るのではないでしょうか。看護師さんの知識は大したものです。経験の浅い若い先生より、ずっと広く深い知識を持っていることがあるよ、とベテランのお医者さんが言います。健康のコンサルタントとして頼ってみてはいかがでしょうか。

 もちろん、看護師さんも暇ではありません。独占して、他の患者さんに迷惑を掛けるわけにはいきません。でも正直に「先生の話、ここが分からなかったんですけど」と質問してみてはいかがでしょうか。大概は、ニコっと微笑みながら教えてくれることでしょう。彼女らは心から「お大事に」と言ってくれます。

 医師も看護師も、どちらにも「師」の字が付いています。健康に関するプロフェッショナルであることには変わりありません。ただし、質問は整理してからにしましょう。コミュニケーションにはお互いの分かり易さが必要です。

大阪市立大学大学院 経営学研究科 特任教授 松村眞吾

お医者さんとのコミュニケーション −「健康ノート」の勧め          2009.6

 ある調査によれば、患者さんの満足のほとんどは医師とのコミュニケーション次第だということです。先生が病状を良く聴いてくれて、分かりやすく説明してくれたらうれしい、というわけです。病院やクリニックに行くのは、病気を治したいからですが、安心したいという気持ちも大きいでしょう。先生のお話で納得したいということもあります。

 医師・患者間のコミュニケーションで何が問題になるのでしょうか。一つは医師側における“決めつけ”であり、一つは難解な専門用語などです。患者側での問題はないでしょうか。先生に聴いてもらいたいというならば、そのために準備することがあると思います。
正直に言って先生方の態度に問題がある場合も多いのですが、患者さんの側にも責任があるというわけです。

 「健康ノート」あるいは「マイカルテ」を作ることをお勧めします。今までにかかった病気や気になる体調のこと(例えば頭痛や体重減少)など最近の検診結果などを1冊のノートにまとめるのです。それから今の症状を簡単にメモっておくのも良いでしょう。何時ごろから、どこに異常が出ているか、熱はどうかなど、です。医師は患者さんの話を聴き、どんな病気かを判断して、必要な処置を決め薬を処方します。ですから患者さんが話される時、出来るだけ情報が整理されていて分かりやすいことが必要なのです。「健康ノート」はきっと役に立ちます。

 「健康ノート」は先生への情報データベースになるだけではありません。健康の自己管理という面でも活躍します。仕事でこんな無理をした時にセキが出てとまらなくて困ったことがあったな、成るほど、自分は疲れがこんなところに出るのだな、などと日常的な健康管理に活用するのです。自分自身のことを知ること、それが自分の健康を守る第一歩であり、「健康ノート」に記録していくことはそのための手立てなのです。

大阪市立大学大学院 経営学研究科 特任教授 松村眞吾

かかりつけ医”を持とう          2009.3

 あなたはかかりつけの先生を持っていますか?
昔は近所の開業医の先生に何でも相談したものです。しかし、現代医学は驚異的な発展を遂げました。専門分化が進んで、病気の種類によっていろいろな専門医療機関にかかるのが普通になりました。専門医ランキング本の類も世に出回っています。医学の発展は頼りになることですが、日々の健康管理にとってはどうなのでしょうか。

 心身症という言葉を聞かれたことがあると思います。内科の病気かなと思って内科クリニックにかかっても原因ははっきりしない。心の病気が隠されているかもしれないのです。ご高齢者には、幾つものクリニック・病院をかけ持ちしている方も多いと思います。診察を受ける時、先生に毎日の生活のことや家族の病歴などをお話しできていますか?

 こんな時、かかりつけの先生を持っていることが大切なこととなります。「ご両親の既往歴からすると、あなたも同じ病気かもしれませんね」「あなたの仕事からすると、こういった病気の可能性がありますから、専門の先生に診てもらいましょうか」などと、的確な診断、適切なアドバイスをもらえる確率がぐっと高くなります。短い診察時間であっても、あなたの日常的な健康状態や生活背景、家族の病歴などを知ってもらっていたら、正しい診断、処方・処置、そして適時適確な専門医の紹介を受けられる可能性が高まります。

 胃腸の専門、心臓の専門、糖尿病の専門などと臓器別・病気別の専門の先生、内科、外科、メンタルクリニックなど診療科別の専門の先生の存在は、看板やホームページで謳ってあります。しかし臓器別・疾患別ではなく「あなたの専門医」は、あなたご自身で見つけて持つ必要があります。かかりつけの先生は、日常の健康相談から専門の病院紹介まで、あなたを熟知し、あなたの健康の入口をキチンと管理してくれる存在です。

大阪市立大学大学院 経営学研究科 特任教授 松村眞吾

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